第77章 世界一の辛さ
呪い。
ああ、そうかもね。
生まれ変わっても、私たち家族は変わらなかった。
でも、いいんじゃない。
人間なんて完璧じゃないんだから。呪われてるくらいでいいんじゃない。
「……ょ」
喉が、震えるのが分かった。
「愛してるよ、お兄さま」
私はにこりと笑った。
那由多の目が見開かれる。
動揺したせいか照準がそれ、私の腕に刃物は突き刺さった。
痛い、とかそんなことどうでもよくて。
私はすぐに刃物を抜いた。そして呼吸で止血。
これくらいはできる。
「お願いします!!」
その時、外から声が聞こえた。
バリンと家の窓が割れた。
飛ぶように室内に入ってきたのは春風さんだ。
一気に距離を詰める。那由多は応戦しようとするが春風さんが低く潜り込んだおかげで一歩届かない。それに凶器は今私が持っている。
春風さんが丸腰の那由多に負けるなんてあり得ない。
春風さんが那由多を抑えこみ、手錠をかけた。
「…全く、この手の作戦嫌いなんですけどねぇ……」
「うまくいきました!」
「おや、声が出たんですか!!」
バタバタと暴れる那由多を抑えつつ、春風さんはぱあっと笑う。
「って思い切り刺されてるじゃないですか!だから“あなたを囮にする”なんてめちゃくちゃな作戦は嫌だったんですよぉ。」
「…何言ってるんですか、最初からこうするつもりだったんでしょう?」
私は呆れた。
今回はどうやら春風さんの手の上で転がされたらしい。
那由多が父親を殺害した容疑で捕らえられていたことを知った私は那由多に会いたいと言った。
証拠がない。那由多を捕まえられない。
なら、証拠を作ればいい。
那由多が悪人だという絶対的事実を。
会いたいと言った時反対はしなかった。それなら自分は外で待っていると言ったのだ。
春風さんはいざとなったら助けに来る、と言った。
彼は影でほくそ笑みながらこの状況をセッティングしたのだ。
「さあ、なんのことですか?」
……本当に怖い人だ。
「ていうか殺されるなてヘマしませんよ。腕も刺さったとはいえ浅いですし。血も止めました。」
「よかったよかった。今救急車呼んだので。」
…ともかくこれで那由多は警察に再び身柄を拘束される。