第77章 世界一の辛さ
「家族に俺はいらないんだって言われたよ」
今でも覚えているのか、はっきりとそういった。
「俺がいるからおかしくなったんだって。童男を殴ったのは童男のためなのに、俺がやり返したせいで母親は殴られて、童男への暴力は酷くなって、父親は俺にイライラするせいでもっと家族に当たり散らすんだって。」
「…」
「ガキみたいだろ?でも俺たちの父親はそう言う人だったんだ。」
本当…なのだろうか。
信じていいのだろうか?
「右半身にひどい火傷が残った。…父親は謝らなかったよ。それで、母が君を産んでからは…もう知ってるよね。」
【どうして殺したんですか?】
「どうして?父が死なない限り俺に自由はなかったから。」
私はじっと彼の目を見つめた。
【嘘ですよね】
思わずそう言っていた。
【じゃあ、私と…童男と、母を殺したらあなたは自由になれるんですか】
「…」
【だってあなたは刑務所に行くんだから自由になんてなれない。家族を消すことはあなたの自由にはならない。あなたが消したいのは、家族じゃない。】
私はじっと那由多を見つめ返した。
【家族を潰してしまったと思い込んだ、あなた自身でしょう。】
那由多が立ち上がる。
「で、君はどうして父親を殺した相手に会いにきたの?」
【本当のことが知りたかったからです。私があなたと家族でいるために。】
「は?」
【私も霧雨の一員だから】
那由多は目を細める。
「何、結婚したんでしょ。霧雨を出たんでしょ。それでいいでしょ。」
ゆらり、と揺れる。
頭の中で危険信号がやかましいほど鳴り響いている。
「そんなに死にたいの?」
【あなたが父を殺したというのなら私もその罪を背負います】
「意味のわからないことを…!!」
【全部一緒がいいです、家族だから】
那由多はぐっと拳を握りしめた。
【もうあなたを1人にしない、私は1人になりたくはない】
「馬鹿」
那由多は私に一歩近づいた。
「俺がいなくなることで霧雨は初めて家族になれるんだ。みんなで俺のこと虐げればよかったのに。父親を家から追い出せばよかったのに、母も童男もそんなことしなかった。」
その手に握られた刃物に、恐怖心などなかった。
「優しすぎるのが、霧雨の呪いだ。」