第77章 世界一の辛さ
次の日。
私はとある場所を訪ねていた。
そこは那由多の家だった。
那由多は莫大なお金を払ってとりあえず解放された。過去の事件とやらは立証までには至らず、今は停滞しているのだそう。
春風さん曰く、警察が慌てているのは時効が来るからだそう。
私は躊躇いなくインターホンを押した。
『どちら様?』
気だるそうな声が聞こえた。
その声が父のものに似ている気がして、少しドキッとした。
『です。会いに来ました。』
声が出ないのも忘れてぱくぱく口を動かした。
門前払いを覚悟していたのに、そのドアはあっさりと開いた。
会社の社長をしていただなんて思えないほど小さな家だった。まあ1人なのに一軒家に住んでいる時点でお金持ちか…。
「…入って」
那由多の感情はやはり感じられない。…んん〜何考えてるのかわからないって難しい。
感情の一切はわからないけど、殺気は普通に察知できる。それはつい先日の事件で分かったことだ。
察知したからって動けるかは私次第だし自信ないけどねーーーーー!!!
『お邪魔しまっす!』
私はほがらかに笑って那由多の家に入った。
中は丁寧に片付けられていて、綺麗だった。
「……何の用?」
【聞きたいことがあって】
「うん、座って。」
携帯に文字を打ち込んで見せると、那由多はフカフカのソファーに私を座らせた。
しばらくして水とおまんじゅうが出てきた。
「……君が生まれる前、母親がよくそれを食べていた。」
【そう、ですか。】
「水と和菓子なんて合わないだろって思っていたけど、妊娠なんてしてたらそう言うのしか食べられたなかったのかもね。」
有名な和菓子屋のものみたいで、おまんじゅうは美味しかった。
【覚えてるんですね、昔のこと】
「覚えているよ。」
そういう彼の感情は読めない。
分かったらどれだけいいだろうか、と思ってしまう。
そう思う私は、甘いのだろうか。