第77章 世界一の辛さ
春風さんの話は予想通りだった。
那由多のことを全て話してもらった。
「童男も母親も恐らく、そのことを知っています。」
春風さんは続けた。
「いいですか、くれぐれもあなたは知らないふりをしてくださいね。」
わざとらしく最後にそう言った。
春風さんは私が知らないふりなんてできないって知っているから。
実弥が帰ってくる前に家に帰ることができ、私はおはぎとのんびりしていた。
よしよしすりすりしていたら鼻に猫パンチをくらった。…おはぎが冷たい。
とりあえず今日は平和に過ごすか…。
「ただいまァ」
実弥はいつもより早くに帰ってきて、いつもみたいにおはぎを撫でて私に声をかける。
春風さんが知らないふりをしろと言うのだから、知らないふりをした。
「具合は?」
私は親指を立てた。
「顔色悪いぞ」
実弥は困ったようにそう言い、私の頭を撫でた。
ちょっとムカついたので見えないところで親指下げといた。
「今日は…出かけたのか?上着が出てるが。」
【さんぽ】
「そうか。昼寝はしたか?」
【してないけどしたと思う】
「ちょっと待てどういう意味だ。…ったく、休むときは休めよ。」
【でも今日仕事してない】
「偉ァい」
わざとらしい拍手を頂いたのでありがたくドヤ顔しておいた。
なんてふざけ合っているうちに寝る時間になり、私は実弥に文字でお休みと伝えた。
明日はいつも通りやってくる。
けど、明日になってもいつも通りの日常でいられるかは誰にもわからないのだ。