第76章 思い出される過去のアレコレ
さんはね、孤独なんです。
どんなにたくさんの人に愛されても、彼女が彼女自身を愛さなければそれは無意味です。
自分は愛されている、他人から愛されているっていう考え自体が彼女の中にはない。
でも実弥くんと出会ったことでだんだんそれをわかりつつあるんだ。何回も衝突していたけれど、実弥くんは根気強く付き合ってくれた。
誰かと一緒にいるってことは、彼女に取っては生きるよりも難しくて死ぬよりも苦しい。
けれど、それを平然とやってのけた子がいるんですよね。
時透無一郎くん。
ね、不思議ですよね。
あの子と一緒に過ごしていた二ヶ月間はうまくいっていたんですよ。何でなんでしょう?
ちゃんとあの子が二ヶ月間もトラブルもなしに、子供とはいえ愛し合って誰かと一緒にいられたんですよ。
まあ今生ではかなり揉めていましたけど関係は良好になったみたいですしね。
無一郎くんとはうまくいっているのに、どうして他の人とはうまくいかないのでしょうね。
また、彼女が前世でお付き合いをしていたという悲鳴嶼くんですが。彼とも喧嘩をしつつもラブラブだったみたいですし。
なんなんですかね。何がおかしくなっているんでしょう。
実弥くん、やはり君はさんを理解してはいない。
今のままではさんは孤独だ。かわいそうに。
どうしてだろう。
まあ、その答えは見えていますが。
さんは小さな器だ。
注ぎ込みすぎると、壊れる。
あの子には兄が父を殺したという事実も、自分が愛される存在であるということも受け止めきれない。
彼女は人にはつかない。猫みたいだ。居場所にしがみつく。
居場所があれば彼女の心は満たされる。無一郎くんも悲鳴嶼くんも、彼女の居場所となったのだろう。いつでも会えて、離れようと思えば離れられる距離。
けど実弥くんはもはや居場所ではない。
さんの中に人間としてもうそこにいる。人につかないはずの彼女が人についた。実弥くんも彼女を求めた。