第75章 怒ってます
家の中に通され、お茶を出してもらった。
……あれ?
『模様替えしました?』
「色々ありまして」
部屋の雰囲気がいつもと違うので聞いてみたが、春風さんは答えてくれなかった。
色々ってなんだ?気になるじゃん。
「まあ、せっかくきてくださったのですから楽しい話をしましょう!」
『はいはい楽しい楽しい。』
「雑ッ!?」
『良いから童男と那由多について教えてくださいよ。』
「だから守秘義務…」
『家族のこと聞いて何か問題でも?』
春風さんの表情がピクリと動いた。
……うん。あとちょっとかな。
「あの2人はあなたの家族ではありません…そう思った方が幸せです。」
春風さんは至って正論だ。
きっとそうなんだろうと思うよ。
でも。
私は兄を忘れはしなかった。
名前も顔も、全部覚えていられなかったけど。
その存在を忘れなかった。
それはつまり、何かがあると言うこと。あの人たちの存在を忘れていはいけなかった、何かがある。間違いなく那由多と童男がキーパーソンであることに変わりはないんだ。
『春風さん、あなたは元より童男と那由多の存在を知っていたのではないですか。』
「………」
『前世で再会した時、あなたは私のことと家族のことを覚えていた。それなら、当然兄たちのことも覚えていたんですよね。』
春風さんの顔に影が落ちる。
_________________________怒った
言葉でその感情を表すのならこうだろう。
本気で、多分、今春風さんは怒っている。
理由は本当のことに踏み込まれたから。私は多分、一直線に引かれた糸みたいなものを踏み越えようとしている。
『私は兄の記憶がありません。思い出しはしたものの、ほんの一部分です。』
「……」
『あなたの言う通り、私にはもう家族と呼べる人がいません。贅沢なことを言っているのはわかっています。母も兄2人も生きているのに、私は家族がいないと言うんですから。』
春風さんは家族だ。もちろん霞守の人たちだって。
だけど。