第74章 な ん て ね
なんて怒っても今の私は声ひとつでない。
体が動くだけが取り柄だったのに今は妊娠中だから動けない。私ができることはもうほとんどない…。
「、明日から俺仕事だけど大丈夫か?声以外になんかあったりしないか?」
ソファーで1人沈んでいると、実弥が声をかけてきた。
ぽちぽちとスマホに文字を打ち込む。
【へいき】
「………本当だろうな」
【兵器】
あ、打ち間違えた。
【へいき】
「…」
何も言わずに実弥はぎゅっと私に抱きついた。
「 」
「、何かあったらいつでも言えよ。」
そう言われて、言葉の代わりにポンっと背中を叩いた。
「仕事中でも電話してこい」
声出ないのに!?
「いつでもなんでもいいから、とりあえず俺に言え。いいな。」
そう言われて頷く。実弥は私から体を離した。
「 」
「?なんだ」
「 」
やべ。そういえば忘れてたけど一個言ってなかった。
私は立ち上がって部屋に戻った。話が終わったと思ったのか実弥はそのままソファーに座っていた。
共同部屋に戻ってとあるものを掴む。
リビングに戻って背後から実弥の肩を叩いた。
「ん?」
【これ見せるの忘れてた】
「…」
実弥は私が差し出したものを受け取った。
まあなんでもなく、ただのエコー写真だ。
「え、なんでいきなり?」
【点滴 打った 時の】
早打ちも大してできないのでもたもたと文字を打ち込む。実弥はイライラした様子もなく待っていてくれた。
【怒られたから 見せづらくて 見せてなかった】
「誰に」
私は実弥を指さした。
えっ、と彼は驚きしばらく頭を悩ませていた。
【忘れた?】
「いや、覚えてる。覚えてるから…なんつーか…」
実弥はガシガシと後ろ髪をかいた。
怒ってる?とは聞けない雰囲気があった。
私はとりあえず実弥が持つエコー写真を取り返した。
「あ、おい」
「 」
「…なんだよ……俺にはなんて言ってんのかわかんねぇよ…」
実弥が拗ねたように言う。が、わざわざ文字起こしする気にもなれなかった。
「…それ見せに来ただけか?」
「 」
「ンだよ…」
ぱくぱく口を動かせるだけの私に実弥は困り顔だった。