第74章 な ん て ね
深々と頭を下げた。
「…ッ!あなたがどうせお義兄さんをたぶらかしたんだわ!あなたが何か言ったんでしょう、そうでないとおかしい!」
「やめてください、奥様!不死川さんは妊娠中です…!!」
警察官がなだめてどうにか止まったかと思えば、カバンだとかそこら辺にあったものが片っ端から飛んできた。
…まあ、避けたけど。
「この人と同室だけは嫌です!!」
と、こんな感じで。
私は廊下の椅子で待つことになった。
警察官の人は平謝りだったけど、私は自分で部屋の外に出た。
最後に童男の息子くんと目が合ったけど、すごく空っぽな目だったと思う。
…あの目には見覚えがある。
石を投げる人と、その人から石を投げられる私をただ見ているだけの人。加勢もしなければ、ただそこで佇んでいるだけ。
……あの歳の子に、あんな目させちゃダメだ。
私はしばらくぼうっとしていたが、すぐに実弥が戻ってきた。
「あれ?お前なんで外にいるんだ?」
【説明が難しい】
「は?」
とりあえずスマホでなんとか会話することに。
「俺はなにがあったのか事情聴取されただけだけど、童男さん…だっけ?あの人がほとんど話してくれたから俺いらないくらいだった。」
【童男、元気?】
「ああ。…でも、いったん解散ってだけでまだ終わってないんだ。」
【私 いっちゃダメ ?】
実弥はしばらくスマホと睨めっこをしていた。
「ダメだ。…お前、まだ首突っ込む気かよ。状況わかってんのか?…警察は殺人未遂で動いてるんだ。」
それを聞いた時にスマホを落とすかと思った。
え、殺人未遂?
……………それは…。
【童男は なんて ?】
「大ごとにしないの一点張りだ。なにもなかったでいいってさ。」
【私 も 同じ】
実弥はスマホの文字を読んで、はあとため息をついた。
「言うと思った」
【ダメ?】
「…お前の兄貴だ。俺は何とも。」
彼はそう言ったが、しばらくしてその顔に影が落ちた。
「……けど、もう一回あんなことがあるのはもう無理だ。」
実弥は立ち上がった。
どこかやつれたように見えて、気付かされる。…眠れなかったんだなって。