第74章 な ん て ね
女性の警察官に連れて行ってもらい、部屋に足を踏み入れた。
…警察官がいるだけで背筋が伸びる。悪いことしてないのに。
気配でわかっていたが、その部屋にはもう誰かがいた。
私より年上らしい赤ちゃんを抱っこした女の人と、中学生か高校生くらいの男の子。
女の人はなんだかやつれた顔をしていた。
私が入った途端、女の人は立ち上がった。
「霧雨童男さんのご家族です。」
…ああ。童男の。
話だけは聞いていたけど。結婚して、子供がいるっていう絵に描いたみたいな…。
「奥様、こちらは不死川さんです。一緒の部屋でお待ちいただきますね。」
警察の人は優しく声をかけたけど、童男の奥さんは全然そんな雰囲気じゃなかった。
「あなたが主人の妹…ですか?」
私はスマホでぽちぽちと文字を打った。
「は?スマホ見るとか…」
「奥様、このかたは事件のショックで声が出ないのです。どうかご理解を…。」
「……声が出ない?」
私はなんとか文字を打って奥さんに見せた。
『初めまして。不死川です。童男さんの妹ですが、20年ほど面識はありませんでした。』
そして次の文章を打とうとした時、私のスマホが地面に落ちた。
……あ、やべ。文字打つのに夢中で警戒してなかった。
奥さんは私のスマホを弾き落としたのだ。
「こんなことになってどう責任とってくれるんですか!?」
「お、奥様…!」
私は地面に落ちたスマホを拾い上げた。…うん。割れてないね。
「あなたがねぇ!!あなたがいたから主人まで狙われたんですよ!兄弟2人なら仲良くやれていたんです!!全部、全部、家で主人があなたの話をするようになってからおかしくなってしまったの!!
買収とか、お義兄さんは訳のわからないことを言うし、童男は家に帰ってこないし…どうして主人まで…!!!」
私はただその怒鳴り声を聞いていた。
声が出れば、ちゃんと口にしていただろうけど。今は声が出ないから。