第74章 な ん て ね
ひとまず治療は受けたし診断書ももらった。実弥が先生になんやかんや言って、いろんな手続きをしていた。
その後は実弥に引きずられるように連れて行かれ、私は警察署に。
そこにはきちんとスーツを着た春風さんがニッコニコで待っていた。
「こんにちは〜」
「 」
「…こんにちは」
春風さんは少しかがんで私と視線を合わせた。
「きてもらって申し訳ありませんが、あなたは別室で待機という形をとります。」
「 」
「…今のあなたに、全てをお話しすることはできないという我々の判断です。代わりに実弥くんにお願いしましたから。」
「 」
「大丈夫ですよ。ね?」
「…あの、なんで会話できてるんですか?」
口をぱくぱくさせるだけの私と難なく話せている春風さんに実弥は首を傾げていた。
…あ、そういえば、声も出ていないのになんでだろう。
不思議な力で察しているのかと思ったが、全然違った。
「読唇術です。唇の動きでなにを言っているのかはわかります。」
実弥はポカンとしていた。
「さんもできると思いますよ。」
「 」
「 」
春風さんも私に続いて口をぱくぱくとさせた。
私はスマホでぽちぽちと文字を打ち込んだ。
「ほらぁ当たってます!」
実弥はスマホを覗き込んだ。『できるでしょう?』とそこには書いてあった。うん。できた。
…口の動きっていうか、感情と雰囲気を読み取っただけなんだけど…。
「なんでできるんだよ…?」
「きっと実弥くんもできますよ。では、案内しましょう。実弥くんはこっちで、あなたはこっち…。」
春風さんが私を別室に連れて行こうとするので、慌てて実弥の背中に回り込んだ。
「 」
「ダメです。あなたはここにいてください。それ以上体に影響が出たら私た地では責任が負えません。」
「 」
「関係あります。そんな顔してもダメです。」
私は口だけ動かして駄々をこねたが、春風さんが頑として譲らなかった。
「ちょっと休んでろ。俺は良いから。」
実弥はそれだけ言い残して春風さんに連れて行かれてしまった。私は1人で別の部屋に通され、椅子に座らされた。