第74章 な ん て ね
寝起きだからじゃないか、と実弥が言うので色々試してみた。
まずうがいをした。そして朝ごはんを食べ、実弥がなんか発声練習だとか言って早口言葉をぶつぶつ唱えさせられた。
最後はのど飴を舐めたが、状況は変わらなかった。
「…びょ、病院に……!!」
私はぽちぽちとスマホに文字を打った。
『警察に行かないと。今日休みだからどこもやってないよ。』
「じゃあ休んでないとこ探せばいいだろォ!!お前は着替えろ!!」
実弥にそう言われて私はただ従ったスマホと睨めっこして病院を探し、春風さんに事情を説明する彼。
私はなんとか声が出ないかと色々やったけど出てこなかった。
警察との待ち合わせの時間を遅らせ、実弥がなんとか見つけた病院に駆け込む。
でっぷり太った先生は私を前にして、特になんてことないように言った。
「心因性失声症ですね」
「 」
「…説明しますね。」
多分声が出ていたらここで叫びまくっていたと思う。なにそれ!?とか、ええー!?とか。
お医者さん曰く、こうだ。
「あなたの体には特に異常はありません。つまり、声帯に問題はありません。これは心理的なものが原因で、声が出なくなったものと思われます。」
「 」
「ストレスや精神的ショックが原因とされています…何か心当たりは?」
そう言われて、私はぼうっと考えた。
なんだろう。
……昨日の、こと?
……………そうとは思えないけど…。
「あります」
私の代わりに答えたのは実弥だった。
先生は実弥が答えたことを不審そうにしていたが、続けた。
「失声症は今回のように突然発症することがほとんどです。治療をすることで治ることが大半ですが、具体的には言うことができません。」
「…治るんですね?」
「はい。」
先生は安心させるためか始終ニコニコしていた。
私は声も出ないのでただ話を聞いているだけだった。
どうしてか、この現状にホッとしている私がいた。