第74章 な ん て ね
朝は実弥に叩き起こされた。
…昨日のことで警察に呼ばれてるから、そろそろ起きないと。
「おはよォ」
「 」
「おいおい、寝ぼけてんのか?なに口ぱくぱくさせてるんだよ。」
実弥はははっと笑う。昨日の喧嘩というか、あの空気感が嘘みたいだ。
______________あれ
「 」
「?おい、いつまでそれやってんだよ。いい加減起きろ。」
実弥はそう言って朝の支度を始めた。
______________あれ?
これ、もしかして。
私はポリポリと頬をかいた。
「にゃあ」
「 」
「にゃあ〜ん」
おはぎが甘えにきた。
『今日は腹が減った。カリカリの気分だ。いつもはこの時間にくれないけど、いいだろ?』
カリカリはクッキーのこと…だな。
「 」
『なんだ?なんで口を開いたり閉じたりしているんだ?』
「 」
おはぎは不思議そうに聞いてくるが…。
私はスマホに文章を打ち込んだ。…どうしたらいいかと寝起きの頭で考えながらぽちぽちとやっていたらだいぶ時間がかかってしまった。
いつまでも寝室から出てこない私にイライラしたのか、実弥が髪のセットもそこそこに寝室の扉を開けた。
「おい、遅刻するぞ。春風さん怒らせたらどうなるかわからないんだから…あ?」
私は実弥にスマホを差し出した。メモアプリに文章を打ち込んである。
スマホを指差して懸命に目で訴えた。
「…見ろって?」
「 」
「…いや、喋れよ……」
実弥は渋々スマホに目を落とした。
その瞬間、彼の顔色が変わった。
『声が出ない』
あれだけ考えてたったの五文字だが、一番わかりやすく伝わったのではないだろうか。