第74章 な ん て ね
正直驚きはしたけど、そこまでパニックにはならない私がいた。
冷静だったし、ちゃんと状況も飲み込めた。
「…那由多は母も殺そうとしたんですね。」
「ええ。」
「……わかりました。それじゃあ、もうなんとなくわかりました。」
私はそう言った。
…母まで殺そうとしたなら、恐らく。那由多が犯人とされる事件とは…。
「……ごめんなさい。ちゃんにも危害があるかもしれないから…出産終わるまで引き延ばせないかって霞守も産屋敷も頑張ってねばったんだけど、DRIZZLEの勢いをなかなか抑えられなかったの。」
「……」
私はチラリと実弥の顔を盗み見た。
…表面上はいつも通りだな。
「大丈夫です。那由多をあんな風にしたのは私たちのせいだと思いますし…。逆に、霧雨の問題に巻き込んで…ごめんなさい。」
「…ちゃん」
「………明日、ちゃんと向き合います。…霧雨のことでもう誰にも迷惑かけたくないから。」
ソウコさんはじっと私の目を見つめて、まるであわれむようにため息をついた。
「そう。強くなったわね。…私たちもあなたに全部秘密にしていたんだもの。ちゃんが1人で気負う必要なんてないのよ。」
彼女は私を抱き寄せ、ポンと背中を叩いた。
「ごめんね、こんな家族でごめんね。」
ソウコさんの言葉にポロポロと涙が出た。ゴシゴシと目をこすると、彼女は私から体を離した。
「私は大丈夫です。ちゃんと決着つけます。」
改めてそう言うと、ソウコさんは頷いてくれた。
「…実弥くん」
彼女は静かに…それでも芯のある声で彼の名前を呼んだ。
「今日はごめんなさいね。でもちゃんを責めたりしないでね。」
「…はい」
実弥は腑に落ちないようだったがそう答えた。
「もう遅いから私は帰るわ。また明日会いましょう。」
ソウコさんはそう言って帰っていったその途端、今まで姿を隠していたおはぎがどこからともなく姿を見せた。