第74章 な ん て ね
「おい、そんなに強くはやってねえぞ…」
実弥が流石に焦ったのか那由多に近づこうとする。
「…平気だよ。意識あるみたいだし。」
私は冷静になって彼の肩を叩いた。
その時、ピンポンとインターホンが鳴った。私と実弥は顔を見合わせたが、鍵の開いている玄関の扉は勝手に開けられた。
「こんばんは」
「は…春風さん」
部屋に入ってきたのは春風さん。
…だけではなく。
「……童男」
白のシャツはお腹の部分が真っ赤に染まっていた。刺されたのかと思ったが、そんな気配はなく彼はちゃんと歩いていた。
…偽物の血だろうか?
その後ろにも人がいた。
母だ。
実弥はなんだかポカンとしていたが、その後ろにソウコさんもいた。
今何が起きているのかわからなかったが、このメンバーを見てなんとなくの察しはついた。
「これは…現行犯逮捕、でいいですか?」
春風さんはズカズカと家に上がり、キッチンで倒れ込む那由多に近づいた。
「…なんで…なんで……」
那由多はぶつぶつと何かを呟いていた。
それを見て春風さんはクスリと笑った。
「最後は随分とお粗末でしたねぇ。…霧雨那由多さん。」
その名前を聞いて実弥が私を振り返った。
…ああ、もうその話を私が今日しようとしていたのに。
「…、大丈夫?」
童男はリビングの隅にいる私に気づいて私の元へ駆け寄ってきた。
「…だ、大丈夫です。……あの…もしかして、今回のことって。」
「ごめん。那由多をどうしても止めたかったんだ。怖い思いさせたね。ごめんね。」
童男はポロポロ泣きながら謝ってくれた。
「私、こういうものです。」
「…」
「……じゃあ、とりあえず手を出して。」
春風さんが那由多に声をかけていた。那由多は手を出さなかったが、春風さんは無理矢理手を掴んだ。
「霧雨那由多。あなたには裁判所から逮捕状が出ています。何のことかは分かりますね。」
「………」
「23時39分。あなたを逮捕します。」
春風さんがガチャン、と手錠をかけた。
その光景に私が驚いていると、春風さんは私たち2人を振り返った。