第10章 戦国に降る霧雨
「…随分と痩せてしまった」
縁壱さんが悲しげに言う。
…ああ、そんなこと言わないで欲しいのに。言わせたくないのに。縁壱さんが悲しむ姿を見るのはとても辛い。
「鬼殺隊にいるのは辛いか?」
「…え?」
思わぬ質問に、素っ頓狂な声が出てしまった。
「……いや」
縁壱さんは首を横に振った。
「何でもない。」
「…?」
「大丈夫だ、阿国なら…。また遊ぼう。最近は何もしてやれていないから、私も悪かった。」
縁壱さんの様子がおかしかった。けれど、最後は微笑んでそう言ってくれたので私も笑い返した。
体調が元に戻ってから、私は師範と縁壱さんが話している場面を見た。
その光景は随分久しぶりなことで、思わず声をかけたくなったがあまりにも真剣な様子に思わず物陰に隠れてしまった。
盗み聞きのようなことは良くないと思いながらも、私はつい聞き入ってしまった。
「兄上、阿国は前戦から離した方が良い」
縁壱さんの言葉に思わず声が出そうになるのを必死に抑えた。
「もとより体の調子を崩していましたが、一番仲の良い水柱が亡くなってから更に悪化しています。もう剣士から退かせた方が良いのではないでしょうか。」
「なぜお前がそれを決めるんだ。」
喧嘩……ではない、か。お互いの考えを話しているだけのようだ。けれど、いつしかのような穏やかな雰囲気はどこにもない。
何かを間違えればすぐに取り返しのつかないことになりそうだった。
「阿国が弱音を吐いたのか?辞めたいと言ったのか?…そんな腑抜けなら私は最初から弟子にはしていない。」
「兄上、阿国は決して自分からは言いません。そういう性格です。」
「ならば好きにさせれば良い。阿国の限界は阿国が決める。」
「しかし」
師範が縁壱さんをうとましく思っているように見えた。
…確かに、ここまで饒舌な縁壱さんは珍しいかもしれない。おしゃべりな人ではないから。