第10章 戦国に降る霧雨
大した成果も上がらないまま、人だけが死んでいく。
食事が喉を通らない日もあった。眠れない日もあった。
そんな生活で当然、私の体は悲鳴を上げた。
ある日、真昼間の師範との稽古中に私は倒れた。
師範が私を医者の元まで運んでくれた。
抱き上げられるのは出会った日以来だ。
私はこの温もりが大好きだった。
この感情は弟子が師匠に抱くものではないことを私は知っていた。
しかし、伝えるべきものでもないのでこの胸に閉じ込めている。
それに子供の時みたく師範が優しく接してくれることはなくなっていた。
私は確実に大人の階段を登っていたし、それは当然のことだ。けれど寂しいと思うのは、私のわがままだろうか。
「頭を冷やせ」
その言葉だけを残して、師範は行ってしまった。見舞いにも来てくれなかった。
…病院に連れてきてくださっただけ、今日は機嫌が良かった。最近は私が上手にできないから怒らせてばかりだった。
医者からしばらく安静にするように言われ、一人部屋で布団に閉じこもる日が続いた。
眠らなくてはならないのに眠れなかった。1日中天井を眺めていた。
「阿国、具合はどうだ。」
見舞いに来てくれたのは縁壱さんだった。
思えば、もうずっと師範と縁壱さんが並んで歩いているところを見ていない。二人が揃って、ということはほとんどなかった。
「…ごめんなさい、師範を怒らせてしまいました。」
「…。それは違う。謝るのなら自分の体の悲鳴を無視したことだ。兄上が怒っている理由も同じだ。」
私は起き上がろうとした。しかし、体に力が入らない。縁壱さんが支えてくれてようやく起き上がることができた。