第72章 “本当の記憶”
そして何かに触れる前に、私はキキっと足を止めた。
『いったい何が起きてるのか知らないけど…!!』
カッと目を見開き、私は見えない壁を見据えた。
『全部全部私の大切な思い出だ!!!痛いことも嫌なことも、私だけのものなんだからーーーーー!!!!!』
そして思い切り走った。
『夢の世界が独り占めしてんじゃねええええええーーー!!!!!』
ビビりまくっている陽明くんを抱きかかえ、私は飛んだ。
そして目には見えない、どこまで続いているのかわからない壁を一気に駆け上がった。
私は血迷ったわけでも逃げたわけでもなく、私は助走をつけるために後ろへ走ったのだ。
思いっきり走り、壁を駆け上がるための助走を確保していたのだ。
『えーっ!?壁を走ってる…!!!』
しかし、壁を登るのは私たちではない。後ろから何かが来ていた。
壁は途方もなく続いていた。そのうち、私の方に限界が来た。夢にも限界とかあるんだ。
『さん…』
『全集中…!!!』
私は陽明くんを抱えながら、壁から離れた。
そしてついに、私たちを追いかけてきていた何かと面と向き合うことができた。
『霞の呼吸キック!!!!!』
『何それーーーーーーーーーーーーーー!!!』
うるさい。咄嗟だし適当なんだから仕方ないだろ!!
私は呼吸の力を使って渾身の踵落としをそいつに食らわせた。
その何かは、私。
獣みたいに、地面を這いつくばって、走ってくる私。
『お前の居場所はどこにもない』
『……ッ!!』
『お前は私の思い出だ。だから、今を壊さないで。』
彼女はそのまま落ちていった。私と陽明くんも落ちていく。
けれど、周りの景色は一気に変わっていった。