第72章 “本当の記憶”
『え!?』
『いっ!?』
2人とも素っ頓狂な声を上げた。
木の下に埋まっていたのは………。
結論を言うと、死体でもなんでもなかった。
『………』
桜の木の下に埋まっていたのは、死体でもなんでもなく。
『精神の核…?』
『こ、今度こそ本物?』
おぎゃあ、おぎゃあ、と泣き声が止まらずに続いている。
青かったり、桜色に光ったり、なんか不思議な色をしたものだった。
『……ダメだ』
『え?』
『こんなところにあるのはダメだ!精神の核を運びましょう!!』
『えええ〜〜!!!!!なんで!?もう良くない!?ここにあるべきだからあるんでしょう?』
『違いますよ。このままじゃ…』
その時、なんだか地鳴りがした。
あまりにも地面が震えるので、陽明くんがふらついた。
『え、何』
『逃げましょう』
『は?』
次の瞬間、ドンと地面が揺れた。
え?何?何?
それを合図みたいにして陽明くんが私の手を引いて走り出した。水の中なのに体はやはり動く。
私と陽明くんは走った。
後ろから何か来ている。
それがわかったから。
『い、いったい何が起きてるの!?』
『振り返っちゃダメです!まっすぐ走って!!!』
『…なんか、こういう昔話読んだことあるよ…振り返ったらもう二度と戻れないっていう…』
『…御伽噺ならいいんですけどね』
地面は相変わらず地震みたいに震えているし、ドンドンと大きな音が鳴ってびっくりするし、やばいことしかない。
ああ、なんて怖い夢なのかしら!!
いいかげん目を覚ませよ現実の私!!!
『ぎゃっ』
『ぐっ』
だが、そんな命懸けのランニングもすぐに終わった。目の前に、目には見えないが壁があるみたいだった。
妊娠してから走ることなんてなかったから新鮮でいいんだけど、こんなの全然望んでない!
私たちは悲鳴をあげて尻餅をついた。なすすべなくその目に見えない壁を見上げるが…。
『陽明くん』
『…何、ですか』
『ちょっと待ってて』
後ろから来ている何かを見ないように、ぎゅっと目を閉じて後ろへ走った。
『!?何を!?血迷ったんですか!?』
私は風を切って走った。
あれ、水の中でも風とかあるんだ。
…この荒々しい風、どっかで感じたことあるなぁ。