第72章 “本当の記憶”
私たちが動き出したのは、それが聞こえてからだった。
カラカラカラ……
何かが、とめどなく音を鳴らしている。
カラカラ…
『風車だ』
私が言うと、陽明くんがハッとした。
音のする方へ歩けば、そこには満開の桜が咲いていた。
…あれ?ここ、水の中だよね?
桜はハラハラと花びらを散らしていた。
『……』
桜。
『…私、空が青いのも、海がキレイなのも、桜が美しいっていうのも、知らなかったんだよね。』
なんだか…ここは落ち着く。
桜の木の下ではカラカラと風車が回っていた。
『…ここが…さんの心…?』
『え?これ?』
『……そうだと思います。なんで…連れてきてくれたんだろう。ねえ、君は誰?』
陽明くんが話しかける。
私もわかった。桜の木の裏側に誰かいる。
おぎゃあ、おぎゃあ、と泣き声が聞こえた。
________赤ちゃん?
『私の赤ちゃん』
水の中でも涙は流れた。私はおぼつかない足取りで木まで歩いた。
『そこにいるの』
本当は、泣くことなくすぐに死んだ。
望まれない子供だった。でも。
私は、忘れたことなんてない。
実弥との子供が産まれても、父との間にできてしまった君という命を忘れることもないだろう。
『……綺麗な桜の木の下には死体が埋まってるって言いますよね。』
『陽明くん、その情報今じゃなきゃダメ?』
『埋まってるものは掘り出せばいいんですよ。』
ハッとして振り返れば、陽明くんは親指を立てていた。
そして桜の木の下に膝まずき、素手で地面を掘り出した。
『え!?え!?』
『お、無意識領域にも地面があるみたい!掘れる掘れる!!』
『待って待って!!私のしんみりとした気持ちを返してー!!!!!』
陽明くんは止まらず、さっさと掘り進める。地面にそこそこの穴が開いた時、何かが見えた。
『きた!死体だ!!』
『え!?まさか本当に!!』
『さあいったい誰だ〜!!!!!!』
陽明くんは勢いとのりに任せて作業を進めた。
そしてついに、それが明らかになる。