第72章 “本当の記憶”
陽明くんは上を見上げた。けれど、何も見えないほどここは深いようだった。
『うーん…戻り方がわからなくなった。』
『え』
『これ、登れる?』
あたりには捕まれそうな壁もなく、かといえ水の中なのに泳げるわけでもない。
『無意識領域?っていうの、上に行かないと出られないの?』
『うん、まあ…』
『………』
なんか引っかかるんだよな。
私の無意識領域っていうの、ここなんだろうか。
『出られないとどうなるの』
『まあ、夢の中にいることになりますね。』
『ああ、目が覚めないってこと…』
……あれ、それってまずくね?
『ねえ!!いつもはこんなことにならないのに今日だけどうしてやばいことになるわけ!?』
『ご、ごめんなさい!俺が無理やり侵入したから…』
『いや意味わからないけど!!ていうかなんで出られないの!?私の夢なのに!!』
『そりゃ、外から何か刺激があれば目覚めるでしょう。でも俺たちがここから出ない限りはその刺激も届きません。』
『ダルっ!!じゃあとっとと出よう!!』
立ち止まっていてもしょうがない、ということで私たちは再び手を繋いで歩き出した。陽明くんにはまた私の姿が見えなくなったらしいのだ。
『さっさと出ないと!ここら辺のもの押したりしたらなんとかならんか!?』
『無意識領域で暴れないでください!何か壊せば全部壊れますよ!!』
『あーもう!!』
そうやって歩いているうちに、いろんな記憶に出会った。
前世のものではなく、今生のものもあった。
赤ん坊の私を置いて家を出ていく那由多と童男。
私の世話をする童男。
那由多に殴られても私を守る母と童男。
父と真正面から向き合う那由多。
どれもろくなもんじゃない。
陽明くんも青い顔でその記憶を見ていた。
『……もう頭おかしくなる!!』
夢の中だから疲れていないはずなのに、私たちはその場にへたり込んだ。
歩こうなんて言う気にはならず、陽明くんも項垂れて座った。
『…何か……』
彼はうわごとのように呟いた。
『…何かあるはずなのに、わからない』
それがどう言う意味かを聞く元気もなくて、しばらく座り込んでいた。