第72章 “本当の記憶”
気がつけば、私と陽明くんはとある場所にいた。なんだか雰囲気のある洋館だったが、私はそこがどこなのかすぐにわかった。
『霧雨の家だ』
『…もしかして、前世の?』
『うん。』
私と陽明くんは、まさかの場所にたどり着いた。
『……ねえ、どうして無意識領域?ってやつの中に私がもう1人いたの?』
『そりゃ、あなたの無意識領域なんですからあなたがいてもおかしくないですよ。』
『……そういうもん?』
『そういうもんです。』
なるほど。わからん。
『それより、この状況に何か心当たりありますか?』
『…多分、これ私の記憶の中だと思う……陽明くんにはこれ見えてるの?』
『今初めてさんの姿と周りの景色が見えましたよ。確かに、持っていたはずの精神の核が消えていますし、記憶の中ということは間違いありませんね。…どうやら、一番深いところまで来てしまったみたいです。』
『…そう。相変わらず陽明くんは那由多のままだけど……。』
それに不気味さを感じたが、陽明くんであることに変わりはないのでとりあえずはほっとした。
もうお互い姿が見えるからそんな必要はないのに、私たちは再び手を繋いで歩き始めた。
私は迷うことなく、自分の部屋へと進んでいった。ドアを開けようと手を伸ばしたが、私たちの体は難なくドアをすり抜けていった。
『ッ!!!』
部屋に入った瞬間、私は咄嗟に陽明くんの抱きしめて視界を塞ぎ、耳を塞いだ。
(よ…よりによってこの時かーーー!!!!!)
寝台の上で、明らかにおかしなことが行われていた。
血反吐を吐く勢いで泣き叫ぶ私と、ぶつぶつ気味の悪いことを言う父親。
………私の、人生で一番最悪な記憶。
『あの、さん』
『あ、ごめんねプロレスごっこ中だったみたいで。ジャーマン決まってるわ、あははははは…』
『…いいですよ。構いませんから。』
『ちっとも構わないわ!!!!!ダメダメ見ないで聞かないで!!君には刺激強いから!!お願いだからあんな私見ないで!!!!!』
めちゃくちゃなことを言いながらも陽明くんを部屋から出そうとした。しかし、彼は。
一向に動いてくれなかった。
それどころか……。
彼は父に襲われる私の元へ堂々と近寄っていったのだった。