第72章 “本当の記憶”
その時、頭の中に何かが流れ込んできた。
また進む。一歩踏み出すたび、情報がどんどん増えていった。
夢の中の私は驚くほど身軽だった。いつからそうだったのか、最初からそうだったのかはわからないが、私のお腹に気配はなかった。まだ見ぬ我が子は今だけどこかに行っているようだ。
私は走ることもなく、ただただ歩いた。
陽明くんの手を握っていたはずなのに、その手はどんどんおかしくなっていってついには別人のものに成り果ててしまった。
『だれ?』
『?俺は俺ですけど。陽明ですよ?』
陽明くんはそう言う。けれど、彼は…。
私が手を握っていたのは、那由多だった。
恐らく……まだ幼い、子供の那由多だ。
『俺が何に見えているんですか?』
『…』
『黙らないでくださいよ。俺にはまだあなたの姿も無意識領域も見えないんですから。』
『え?』
『あなたには何か見えているのかもしれないけど、俺には真っ暗だしあなたの姿も見えない。あ、精神の核落としたりしないでくださいね。探すの大変だったんだから。』
…那由多の姿でそんなこと言われても気持ち悪いだけなんだけど……。
『ねえ陽明くん』
『はい?』
また一歩踏み出した時、足が深く沈んだ。
まるで何かに引き摺り込まれるように、私と陽明くんは海に沈んだ。水の中なのに息ができる。
『…なんだこれ……』
陽明くんが驚いていた。
けれど、私は…なんだかわかる気がした。
『私の無意識領域っていうの、多分ここだと思う。』
『……マジか』
深く深く。
私たちは奥深くへと沈んでいった。
くらい深海の中で、精神の核とかいう奴がランプみたいに奥深くを照らしていた。
そこに誰かがいた。
夢の中。心の奥の奥深くで誰かが私を待っていた。
彼女は、虚な目を私に向けていた。
紛れもなく、彼女は私だった。