第72章 “本当の記憶”
しばらく歩いているうちに、陽明くんが立ち止まった。
『これだ』
『え、何が』
『これ』
陽明くんがしゃがみ、何かに手を伸ばす。…確かに触れているみたいだが、私には見えない。
『何触ってるの?』
『精神の核ってやつです。』
彼はその何かを持ち上げたようだった。
『今まで足元に何かたくさん転がっていたでしょう?』
『はあ』
『あれも全部精神の核だったんです。でも…全部偽物でした。俺、ずっと本物を探していたんです。』
『へえ!…ゲームのレアアイテムみたいな感じかな?』
今日の夢は凝っているな…。だいぶ設定が作り込まれているっていうか、マジ本格的。
『精神の核はあなたを作る上で大切なものだ。これがないとあなたは壊れてしまい、精神が死んでしまう。』
『…そう、なんだ?』
『あなたは精神の核をたくさん作って自分を守っていたんです。そうしないと自分を保つことができなかった。いろいろなことが積み重なって、偽物を作り続けるうちに…。
無意識領域は精神の核であふれかえった。そして、いつしか光が消えた。あなたの心を完全に壊すような出来事があったからだ。あなたでさえも本物の精神の核がわからないほど。』
『はあ、そう』
『これでようやく“ホンモノ”になれます。あなたはあなたを取り戻せるんです。』
『?』
『本当の記憶、見てみませんか。』
陽明くんがそう言った。
意味がわからないし、これは所詮夢の中……。
でも、何でか、どうでもいいように思えなかった。
『わかった。』
私はあっさりとそう答え、陽明くんが手にする精神の核というやつに触れた。
それは、思ったより熱くて、炎のように燃えているみたいだった。
その瞬間、周りの世界の色が変わった。
黒い闇が嘘みたいにさっと消えていった。そしてすぐに違う色が世界を覆った。
ザザっ、と音がした。
『……キレイ』
世界は青色に包まれた。そこにはあり得ないほど莫大な海が目の前に広がっていた。
空は雲ひとつない大空。そのくせ、太陽なんてなくて。
私の手の中の精神の核はほんのりと淡い光を放っていた。
『…これがあなたの本当の無意識領域です』
『これが……』
私は一歩足を踏み出す。バシャ、と音を立てて海水がはねた。