第10章 戦国に降る霧雨
私は有言実行、と言えば良いのか、強くなっていったと思う。けれど師範や縁壱さんには到底敵わない。
くすぶっているうちに仲間は死んでいく。
「水柱が逝ったか」
そんな報告があった日は、縁壱さんが側にいてくれた。師範はどこにも顔を出さなかった。
最近は師範が何を考えたいるのかわからないことが増えた。
師範の優しさは確かにそこにある。
けれど、優しさを包み込むほどの巨大な感情の名前を私は知らない。この世にないような感情だった。
その答えはきっと師範しか知らない。
一方で、私の側にいる縁壱さんからは底のない悲しみが伝わってくる。私はただその手を握りしめた。
暖かい手だったけど、指先が冷えきっていた。
「まだ、子供であったのに。惜しい命だ。」
「……そうですね。」
剣士の中では年も近く、たくさんお世話になった。
「縁壱さん、向こうの世界には鬼なんていませんよね」
縁壱さんは頷いた。
「けれども鬼だって元は人なんだ、阿国。」
その言葉で私は我慢できなくなり、涙をこぼした。
あぁ、何と皮肉なことか。
仲間を殺した鬼にさえ、憎しみなんて抱けないとは。
この人はただ悲しいだけだ。
悲しんでるだけ。
それに比べて私は……。
「縁壱さん、私は鬼が憎いです。」
「そうか。」
「……あなたみたいな綺麗な心が欲しかった。」
そう言うと、縁壱さんは驚いたようだった。
「阿国、私はお前を責めているわけではない。そういうつもりではなかった。」
「ううん、違うの、阿国が悪いの。」
「悪くない、悪くないんだ。だから泣かないでくれお願いだ。こんなに泣かせては私が兄上に顔向けできない。」
それでも泣いた。
仲間の死を悲しむより、鬼への憎しみを覚えた自分自身を恥じた。
泣き疲れてもまだグズる私を縁壱さんは抱きしめてくれた。
幼子とは言えないほど成長した私は、久しぶりに誰かの腕の中で泣きじゃくった。