第72章 “本当の記憶”
寝てしばらく経ってから、私は暗闇に立っていた。
そして気づく。
(これは夢の中だ)
現実ではない。
直感的にそう思った。しかし、それにしては随分とリアルだった。
すこし体を動かすと、何かにぶつかった。それを触ってみると、確かに何かがそこにあった。それでも眼前には暗闇が広がるばかりで、何があるのか全く見えやしない。
『』
名前を呼ばれて振り返る。そこには……。
『陽明くん』
『こんばんは。…またシンクロしちゃいましたね。』
陽明くんは苦笑した。
え、待ってどういうこと??
『あのーすみません、…これって一体…?』
『俺の意識とあなたの意識が繋がったらしい。』
『ごめん。意味がわからない。』
『…ほら、心臓が止まった時と同じですよ。』
『…ってことは私、もしかして今死んでる??』
『それはないです。あなたが死ぬ未来も俺が死ぬ未来も当分先ですよ。』
『はあ…じゃあなんで?』
まあ…よくできた夢なんだろうな。夢の中でも陽明くんはおしゃべりだし大人びて見える。
『それで、どうして君は私の夢に出てきたの?』
『出てきたかったわけじゃないんですけど。まあ、どうにかしないと夢から出られませんし。』
…よくわからないけどそういう設定の夢なのかな。
『さんの無意識領域ってバリアが固いんだよね。何回も挑戦したけどうまく介入できなくて。今日やっと入れたってわけ。』
『うん!さっぱりわからない。私の夢にしては本格的かも。』
『夢ってね、限られた範囲でしか見られないんです。夢はその人の無意識領域からやってくるんだ。だから夢では無意識領域の範囲を超える情報を得ることはできないんだ。その昔、その夢を操る鬼もいたけれど…。
あなたの無意識領域は壁が分厚くて、誰も入れないようなもの。でも無意識領域はその人そのものの人生を表す。その中にその人の莫大な情報が詰め込まれているんだよ。からどうしても入りたかったんだ。』
『……???』
やばい。わからない。夢の中でも変な話ばっかりするなぁ…まあ、今日はそういう夢なんだろう。