第72章 “本当の記憶”
その日、実弥が帰るまで起きて待つことにした。
日中動いたからか結構眠かったけど、なんとか起きていることができた。
「おかえり」
「ただいま」
久しぶりのこの会話になんだかほっこりする。
「あのねぇ、私昨日産婦人科行ったんだけどさ。」
「ああ…悪い、話聞いてなかったな。」
「うん。別に。でね、その時に脱水と栄養失調とかで点滴打ってー」
「は!?」
甘えてくるおはぎを撫でつつ実弥に話していると、彼が急に大きな声を出した。
「何?」
「いや、何じゃねだろ!!脱水と栄養失調って…!!」
「だから、点滴打ってきたよって話。あ、これエコー写真…。」
「待て、その前に確認させろ。お前大丈夫なのか?」
「全然大丈夫〜。あ、踊ってあげようか?マタニティ教室で教えてもらったやつ。レッツエクササ〜イズっ!」
「いい。やめろ。」
えっ渾身のやつ見せてあげようと思ってたのに!!
ちなみにこの教室にはアリスちゃんのとこに住んでいた時に通っていました。
「…そういうことはもっと早く言ってくれ。ていうか、旅行がやっぱりダメだったんだろ。」
「え?旅行中なんて食べるか寝転ぶことしかしてないよ?外に出たのなんてお土産選びの30分とかだし。仕事も家のことも何もしてないから、本当にのんびりしてたんだよ。」
「じゃあなんで…」
「さあ…」
「さあって…当の本人のお前がわかってないとやばいだろ。またなるぞ。」
「わかった。いっぱい飲んで食べる。」
私が気合を入れて言うと、実弥はそういうことじゃないと首を横に振った。
でも私は診察で判明したとんでもないことの話がしたかったので、さっさと話を進めようとした。
「そんなことよりこの…」
「そんなことじゃねえだろ」
ひどく冷え切った声に思わず言葉を止める。
「自分の体のことはもっと真剣に考えろ。」
「…は…はい」
怒られてしまった。
こうなっては彼に話しかける勇気なんて私にはなくて、寝室に閉じこもって先に寝ることにした。
(今日も話せなかったなぁ)
そうは言っても、やはり私が悪いんだけど。