第72章 “本当の記憶”
実弥を送り出し、私は一息ついた。
昨日のこともあったので仕事よりも体調優先にすることにした。一日一回は外に出よう。長時間パソコンに向かうのは……納期前くらいにしておこう。
いやあ、外に出ると健康な暮らしって感じだな。
…買収のこととか全部嘘みたいに思える。
プチ旅行中にみんなで出した結論は『何もしない』ってこと。私が下手に首を突っ込むより神社と学園に任せた方がいいっていうのはわかっているけど、すごく気になる。
私の兄が申し訳ありませんって感じ。…でも、それ言ったら天晴先輩に『あなたの何が悪いの!』って怒られちゃったし……。
難しいなぁ。嫌な予感がするのは確かなんだけど。
……ていうか、家で実弥との会話がほとんどない。
仕事だからしょうがない。わかってますわかってます。
私も納期前は会話減るし、別にいいけど。
仕事ばっかやってる訳にもいかないし…なんか趣味みたいなの見つけようかな。
いーくんとプロレスは…なんか実弥が怒るし。趣味にならなさそう。でもそれ以外、私が家でやることといえば寝るか食べるか肺呼吸くらい…。
………仕事なくなると、私って何もない…。
とことんつまらない人間だな。
公園でぼうっとしたり散歩するのにも限度がある。
そこで私は近くのお店でスケッチブックと筆記具を買い、目の前の景色をデッサンすることにした。
…ああ、幾分か気分が紛れていいかもしれない。
(この線は…もっと細い方がいいな。あの葉っぱはこういう描き方じゃなくて……。遠近感が欲しいから、このラインを見せよう…。)
気づけばこん感じで真剣にやっており、数時間描き込んでいた。それでもずっと座っていたわけではなく、煮詰まれば立ち上がったり、場所を変えたりしたので適度に運動ができた。
あ、これいいかもーいい趣味かもー。
と、思ったのだが家に帰ってから私は我に返った。
「仕事でも趣味でも絵を描いてる………っ!!」
うがー!!こんなのやってられるか!!!