第10章 戦国に降る霧雨
鬼殺隊として、私は訓練を続けた。
呼吸を覚えなくてはならなかったけど、どの呼吸もきちんと覚える事ができなかった。
岩も水も風も炎も雷も。もちろん、日と月もだ。
元から自分で作るつもりだったから、新しい呼吸を編み出すことにした。どうも私には比較的風が合っているようだったので、一番最初に風の呼吸を習った。
「新しい呼吸はどうだ」
師範は気にかけてくれた。時々ではあるが稽古に付き合ってくれた。
「壱ノ型は突き技がいいなあって思うんです。それから広範囲に攻撃ができるような技を考えたくて…。」
「そうか。して、何か理想像のようなものはあるのか。呼吸の名称とかそう言うものは…。」
師範が聞いた途端、私は食い気味に答えた。
「霞です」
私の本当の苗字は霞守だ。もう今はないあの家。何も残さずに燃えてしまった。
何か一つでも残ればいいと思った。呼吸として残せば、きっと後世にも語り継がれる。
「そうか。」
「はい。」
私が頷くと、師範は微笑んで私の頭を撫でてくれた。
「あと、これをやる。」
「…これは?」
師範が差し出したものはカラカラと音を立てて回っていた。
「風車という。風が吹けば回る。」
「…へえ!」
師範がものをくれるのは珍しい。だから一つ一つが宝物だった。
「みんな自慢してもよろしいでしょうか!縁壱さんにもお見せしたいです!!」
「……構わないが、自慢するほどのものでもないぞ。それに特訓はどうしたんだ。」
「…そ、そうでした。」
「励むことだ。鬼は待ってはくれないぞ。」
「はい!阿国は師範よりも強くなります!」
私は風車をブンブンと振り回して言った。師範はまた微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
風車はカラカラと音を立てて回り続けていた。