第71章 何したらいいの?
どっちが正しいことを言っているのかは夢にみた私の記憶が物語っている。童男の方が真実を言っている。
『でも…家を出てから那由多は落ち着いたんだ。…君の心配をしていたのは本当だし、俺はそれに安心していた。』
「……」
『………君が俺らの会社に来た時…那由多が言っていたこにとは嘘が多い。でも初対面の君相手にわざわざ訂正する必要もないかと思ったんだ。だから俺は黙っていた。
…那由多は記憶がおかしいところ以外では安定していた。でも、また狂い出したのかもしれない。』
「それが買収の件ですか」
童男はそうだ、と言った。
『父親と母親が暴力を振るうきっかけは間違いなく那由多だ。恐らく君が那由多のように反抗しないように…悪い道に行かないように厳しく…最悪な教育を与えたんだ。』
「…」
『けれど、那由多はそれを認められないんだと思う。恐らく、火事のことも自分が悪いのに認められないんだ。自分が家族に暴力を振るっていたことも何もかも認めたくないんだ。
だから都合のいいように記憶を変えたのだろうと思う。…病院に診てもらおうにも、ひどく嫌がるから俺の推測でしかないんだけど。』
「……」
『………ごめん、としか言えないのが…本当に申し訳ない』
……………。
私が、
私が、どんな思いで
私は
「…要するに」
私の、気持ちも、知らないで
でも、あの人の気持ちもわからない
那由多の心は誰にも読めない
「…このまま買収が進むのはまずいってことですよね。」
『うん』
「よくわかりました」
『…うん』
「ありがとうございました」
一言二言挨拶を交わし、電話を切った。
私はしばらく机に突っ伏し、なんとも言えない気持ちで一日を過ごした。