第71章 何したらいいの?
『……本当は』
童男は聞き取れるかどうかという小さな声で言った。
『暴力をふるっていたのは那由多だ。』
……やっぱり
それは大体予想ができていた。
夢の中では母と童男の2人にアザがあったから。
『…もともと俺たちを支配していたのは父親だ。母はそれを止めようとしていた。そのうち、那由多は父にやり返すようになった。止めに入る母や、その場に居合わせた俺も容赦なく殴った。』
「………」
『父は度をモラハラ…っていうのかな。今の時代だと。……でも、俺は父に殴られた記憶なんてないよ。横暴すぎるところはあったけど…殴るのも、蹴るのも、俺たちを罵倒するのも、全部那由多だった。』
「……なんで那由多さんはそんなことを?」
『…わからない。俺の知らないところで何かあったのかもしれない。でも俺たちが家を出て行った決定打は、君のいうあの事件だ。』
トンネルでの火災事件か。
新聞記事では那由多の名前なんて出ていなかった。ただ、私の当てずっぽうだったけれど。
…予想通りいかないことより、予想通りの方が嫌かもしれない。現状は私が描いていた最悪の事態を遥かに超えているかもしれない。
『…ある日、那由多は大火傷をして病院に搬送された。……那由多はトンネルで花火をしたらしいんだ。でも、目が覚めた那由多は…『父親に燃やされた』って言い出したんだ。』
「っ!?父さんが!?」
…私の記憶に残る父は最悪の人だ。
けれど、そんなことをするようには思えない。
『父は認めなかったし、その時に父親は会社に行っていた。だからやりようがないんだ。…でも那由多は言って聞かなかった。事件は那由多の火遊びで終わったけどね。
しかも、その件以来…なんでか那由多の素行が更に悪くなったんだ。だから、俺は那由多を連れて家を出たんだ。』
「…童男さんが那由多さんを連れて…?逆なんじゃないんですか?」
『……本当はそうだ。でも…那由多の中では、どうしてか“自分が弟を最悪な家庭から連れ出した”っていうことになっているみたい。』
「そ…それ、おかしいですよ!!」
『…那由多は…そういうところがあるんだ。』
…ますます複雑になってきた。