第10章 戦国に降る霧雨
その人の名を、継国巌勝。
私はどこへ行くにもその人にぴったりと離れなかった。置いていかれたら一人になってしまいそうでそれが怖かった。
そうして私が行き着いたのは、鬼殺隊だった。
「ここにいては、明日には自分が存在しているかもわからないこととなる。」
巌勝さまは私に言い聞かせた。
「それでも来るのか、阿国」
私は頷いた。
「行きます。巌勝さまがいらっしゃるのなら。」
「……そうか。」
何度も何度もこの話をしたけれど、私の答えは変わらなかった。ついぞ、ある時から巌勝さまは何も言わなくなった。
巌勝さまはたくさんの人に私を会わせてくれた。優しい人たちだった。私は皆大好きだった。
そう、本当に。
嘘ではなかった。
特に私に親切にしてくれたのは、師範である巌勝さまとその双子の弟の縁壱さん。
お二人と過ごす時間が一番多かった。
縁壱さんは私とよく双六や凧揚げをしてくれた。遊ぶのは楽しかった。稽古もよくつけれくれた。
師範はあまり遊んでくれなかった。稽古の回数も少なかった。時々は遠くへ連れ出してくれて、色んな物を買ってくれた。幸せな時間だった。
とはいえ、お二人は私よりもずっと年上だった。
年の近い人もいた。
例えば、お館様のご子息様とか。
彼は私より幼いにも関わらず、大人びていて一度も年下だと思ったことはない。
お体が弱いという。女の子の格好をしているのも頷ける。
「男の子とは信じられませぬ。私よりお可愛らしいんですもの。」
「もう、そんなこと言わないでおくれよ。」
冗談ではなく本気でそう言ったのに、けらけらと声をあげて笑われた。
すると当主様がやってきて、遊んでばかりいるなとお叱りになるのでキュッと口を閉じて笑うのをやめた。
「お館様、遊んでいたのではありません。阿国がおかしなことを言っただけです!」
納得できずに言い返すと、お館様まで声をあげて笑い出した。
「そうだね、わかっているよ阿国。でもそういうことではないんだよ。」
「??」
「私たちのこれはお役目なんだよ、阿国。真摯に向き合う義務がある。いつかわかってくれるね。」
私は首をかしげた。その時は一向にわからなかった。