第71章 何したらいいの?
「何がよしなんだ?」
ギギギ、と壊れたロボットのようにぎこちなく首を動かして振り返る。
「……」
「…ベッドにいないと思えば……また仕事か?お前は睡眠より仕事を取るのか?」
おこですね。これはもう激おこですね。怒っていますね。
しかも言い逃れできませんね。
「……………み、見逃しておくんなまし…」
「来い」
実弥がぐいっと私の手を引いてパソコンから引き離した。もちろん強制シャットダウン。
そして私をベッドに寝かせて自分も横に寝転んだ。
「……明日も早いんだから勘弁してくれ」
「……」
あ、そう言えば、今日実弥の話全然聞いてない。
…自分のことばっかりだった。そりゃ…嫌になるよね。
これ以上迷惑かけられないし、眠らないと。
……でも。
でも、夢は見たくない。
『いもうと?』
誰かが私を見下ろしていた。
…面影がある。
童男だ。
『そうよ。妹。』
…母親の声もする。
『……名前は』
『……』
……?
ああ、もしかしてこれ、生まれたばかりの私の記憶?
私を覗き込んだのか、童男の顔が見えた。
その顔はあざまみれで、とてもひどいものだった。
『…女の子……なんだ……』
『そうよ』
『…俺、お兄ちゃん?』
『そうだね。』
童男は嬉しそうに笑っていた。
『童男、あんたは家を出ていくつもりなんだろう?』
『えっ』
『見ていればわかるよ。』
母の顔は見えない。
けど、気配はわかった。
『行くならさっさと行くんだよ。うまくやりな。』
『……』
『自分のことは自分で守るんだよ』
童男はそっと私の手を伸ばした。
『わかった』
『……』
童男の手が私の頬に触れる。あまりにも冷たい体温に驚いた。
『……わかったよ』
その時、母の顔が見えた。
母の顔は童男以上にあざだらけで。
腫れた箇所が痛々しく、私は気付けば大声をあげて泣いていた。