第10章 戦国に降る霧雨
霧雨の降る日だった。
私はどこかわからない山道の隅で膝を抱えて座り込んでいた。
故郷は燃えた。人は死んだ。もうどこにもいくところはない。
自分の体が冷えていくのがわかる。多分、もう死ぬんだろうな。このまま、冷たくなって。
そう思っていた。
「一人か」
そんなときに、声をかけられた。
顔を上げるといつの間にか目の前に体の大きな人が立っていた。いつからそこにいたのかわからない。けれどどうでもいい。
その人の言葉にただ首を縦に振った。
「家族は」
「死にました」
どうやらお侍様のようだが…。
「私と一緒に来るか?」
気づけば手を差し出されていた。
冷たい霧雨が止んだ…と思ったが、その人が私に傘を傾けてくれたのだとすぐにわかった。そのせいでその人の着物が瞬く間に濡れていく。
「……うん」
その手を取った。
すると、その人はすぐに私を抱き上げてくれた。
暖かい温もりに、ポロポロと涙が溢れた。その人の体にぎゅっとしがいついた。
「名前は」
その時、私は答えた。
「霧雨阿国」
霞守阿国はもういない。霞守の家は消えた。
隠さなければならない。霞守の名前は、公にしてはならないと両親から言われていた。祖父母もそうだ。ずっとそう言い聞かせていた。その理由はわからないが。
その人は黙って歩き出した。
私はただぼんやりとその人の腕の中でおとなしくしていた。