第70章 本当に最強?
しばらく後に実弥が戻ってきた。
私はいらないというのに食べろと半分くらいよこしてきた。二人で温まったところで、またしばらく歩こうということになった。
「……」
「どうした?今日はおとなしいな。」
さっきから耳鳴りがしていた。頭も痛い。
…いやな予感がする。
「……なんかさぁ…“今!”って時あるじゃない?」
「はあ?」
「行動するなら“今!”しかないっていう…。なんかそんな瞬間ってあるじゃん?」
「…わからなくもないが」
私ははあ、と息を吐き出した。
「なんか、“今!”って瞬間が永遠に続いちゃうような気がしてる……」
「……なんだそれ。」
「…わかんない」
「そんな顔すんなよ…」
実弥がわしゃわしゃと私の頭を撫でる。
「お前がわかんないなら俺もわかんねえけど…」
「だよね、ごめん。」
私は取り繕うように笑った。…実弥まで不安にさせちゃダメだよね。
「なんでもない。最近具合が悪かったから気持ちが下向きになってたのかも。」
「……」
那由多のことを話す気にはならなかった。
霧雨の家に彼を近づけたくはなかったから。
「…何かあるなら話せよ」
「うん」
私はそう答えた。
『霧雨が降っていたの』
『綺麗だった』
『ずっと雨が降っていればいいと思った』
『雨にうたれていたら、あの人に会ったの』
『手を差し伸べてくれたの』
『だから霧雨と名乗ったの』