第70章 本当に最強?
「ああ、そうだ。そういえば先日母と出かけたんですよね?」
私がぼんやりとそんなことを考えている間に、陽明くは唐突に話を振ってきた。
「あ、うん…出かけたっていうか、私の私用なんだけど。」
「……お兄さんの話ですよね。僕からすればいとこなわけですが。」
「…うん。」
「…親は俺が知ってること知らないので、あまり言わないで欲しいんですけど…。」
陽明くんは深刻な顔で続けた。
「一番上のお兄さんは気をつけた方がいいです。」
「…あ…そういえば、あなたのお母さんが…『神様も見放すような子』って。」
「はい。…見放したのが神か知りませんけど、俺たちと違うのは確かです。あの人は異質だ。俺でさえ存在がわからなかった。」
「?」
どこか焦ったような気配がする。
「陽明くんでもわからないって…でも私の兄がいることは知っていたんだよね?」
「はい。でも、俺はあなたの兄は一人だけだと思っていました。童男っていう…次男の人だけだと思っていたんです。」
「…那由多、は」
「わからなかったんです。母を問いただした時、初めて知りました。」
「え?」
…わからない?陽明くんが?
「先に言っておきますが俺の力は絶対じゃありません。条件がある。」
「…条件」
「ええ。俺は全てを見通せますが、日本に住むおよそ一億人…強いていえば世界に住む人間78億人全てを理解できるわけではありません。
例えば、俺はあなたが童男に会うまで童男の存在を知りませんでした。それまでは俺の中に童男の存在がなかったからです。」
「ああ、自分が知らない人までは力が及ばないってことね。」
「はい。俺がその人のことを認知するまでは存在を悟れないんです。その点ではあなたの方が力は強いのかもしれません。」
「そっか。私は力が届く範囲なら無差別に気配を感じられるから…。」
「俺の血が薄くなったことで阿国は力が弱体化していると思っているみたいですけど、時代が進んだ分進化を遂げたのかもしれません。」
なるほど…。
陽明くんほどの優れたスキルはないけど、色んなものを削ぎ落として強くなったって感じなのかな。しかも、その力が人によってバラバラ。
……これは裏を返せば相当なメリットなんじゃないだろうか。