第69章 気づけば花嵐

私は実弥にバレないようにニヒーと笑いを浮かべた。

よし。ちょっといじめてやろう。


「粂野さんって格好いいよね」

「…そうだな」

「笑顔が素敵っていうか。それでも兄貴感があって。」

「………アイツは兄貴面してぇだけじゃねえか」

「私ああいう人好きなんだよね〜」


ムフッと笑うと実弥がバッと首を動かして私と真正面から目を合わせた。


「………ああ…そう…」


と言いつつも、実弥の顔には青筋が浮かんでいるし笑顔は引きつっているし声は震えている。


「い…い奴、だから…な」

「ねぇ〜」


ふっと一瞬吹き出してしまったが実弥にはバレていなかった。

その後も実弥は何事もないかのように振る舞っていたが、ご飯の時に変化が訪れた。


「アレ、もう食べないの」

「……なんか…腹へらねェ」

「ぷっ…あ、…ああそう…ふふ」

「…なにが面白いんだよ」

「あ……あはは、あはははっははは！！もう無理！！ねえ！！我慢できない！！！はははははは！！！」


実弥の様子に思わず笑いを堪えきれず、私は大爆笑。

笑われた実弥は納得できないと言いたげだが。


「なっ、なんか様子が変だな〜と思ったら。あ、ああそう、ふっ、ふふふ。そういう路線で行くことにしたの、ふふっ。」

「ろ、路線…？」

「ねえ、なんで私に小言を言うのやめたの？」


実弥はぎくっとしたように肩を震わせた。


「……」

「まあなにがあったか知らないけど、このままでいいならいいよ。見てて面白いし。」


私が言うと、実弥はためらいがちに聞いてきた。


「…俺がああだこうだ言うの、うっとうしくないのか？」

「今更か。もちろんめちゃくちゃうざったいよ。」

「……」

「あ、それを気にしていたのか。」


なるほど、納得…

てか本当に今更じゃねえか。


「私は別にどっちでもいいけど。」

「………。」


実弥はじいっと何かを考え込んでいるようだ。

…でも結局答えは出なかったのか、その日はいつも以上にぼうっとしていた。