第69章 気づけば花嵐
ご飯代を奢ってもらってカフェを後にした。
その後はすぐに家に帰り、他の仕事に手をつけた。
そうこうしている間に時間が経ち、実弥が帰ってきた。
「おかえり〜」
「……」
リビングの仕事机に張り付きながら声をかけると、彼はズカズカと私の方に近づいてきた。
「お前、それ何時間やってんだ?」
「知らん。」
「…ッ仕事は…!!!」
いつもの調子で小言が来るかと思ったが、実弥は何も言わなかった。
「……ほどほどにしろよ…」
「はあ」
止められなかったのでキリのいいところまで進めた。
…?なんっか様子がおかしいんだよな。まあ無理に止められないし私は嬉しいんだけど。
るんるんで仕事を進めて椅子から立ち上がる。
実弥はなんだか顔をひきつらせて台所で晩ご飯の用意をしてくれていた。
「あ、お前春風さんの作り置き昼に食わなかったのかよ。」
「郵便局に行くついでに外で食べたのよ。」
「そうか。まあ食ったならいいよ。」
そこで私は昼にあったことを話すことにした。
「そうだ!あのねっ、今日粂野さんに会ったんだぁ!それでカフェでお昼ご一緒させてもらったの!」
「ッ…まさちか……!?」
「うん、そう。」
「二人で…?」
「うん。」
あっ、ハンバーグの作り置きがあるぅ!豆腐ハンバーグかな。わあ、ソースまで…!!
「これすごく美味しそうだね。今日はお肉にしよっか。」
「…ああ。」
実弥はどこか青ざめた顔。
「……匡近は…いい奴だからな…」
「うんうん、兄貴分って感じの。」
「誰にでもフレンドリーっつーか」
「優しい人だよね〜」
「……お前は…全員に愛想良くニコニコしてるからァ……」
最後は声が小さくなって、しゅん、と力なく黙ってご飯の用意を再開した。
「ぐへへへへへ、私ってニコニコしてる?可愛い?粂野さんが今日可愛いって言ってくれたんだよね。くふっ。」
「………そ…そうかァ…」
笑っているけど目が笑っていない。
ほっぺがひきつっている。
………もう。いったい何のつもりなんだか。