第69章 気づけば花嵐
「前世の話になっちゃうけど。」
彼は少し目を伏せて続けた。
「俺、鬼と戦うあなたを何回か見たんだよね。」
「……はぁ。」
「柱だったから覚えてないだろうけど…強烈なまでに覚えてる。すごく綺麗で可愛い女の子が、髪の毛振り乱しながら…目に見えないほどの動きで走ってるんだ。」
……私は覚えてない、な。確かに。
鬼との戦闘中なら尚更…。
「血まみれになって、それでも倒れなくて、痛いはずなのに何も言わなくて……一人でフラフラ歩いてさ。そんで、笑ってんの。ありえないでしょ?
………代わりに、後ろにいた奴らは誰一人怪我してなかった。だからさ、俺思ったの。
ああ、この人、多分死ぬまで止まらないんだろうなって。片足になろうが、両手ちぎられようが。
……………俺、すごく不安になったんだよ。この人って…友達とおしゃべりしたり、誰かとご飯食べたり、笑ったり、泣いたり…さ。
俺らみたいな下っ端がやってること一切やらないで、…自分は、鬼殺隊の辛いこと全部背負ってる気がしてさ。
……それが、なんかモヤモヤしてたんだよね。」
粂野さんは心臓のあたりをおさえた。
「……私にだって、友達いました〜」
それに対して私は頬を膨らませた。すると、粂野さんはキョトンとした顔で私を見つめる。
「継子もいました〜あと一緒にご飯食べる人いました〜何ならお誘いもらってました〜あと〜あと〜……
こ!い!び!と!
もいました〜」
「うっ!その言葉は俺にクリティカルヒットだよ!!」
むすっとする私に彼は吹き出す。
「あはっはははっ、ほら、全然イメージと違うんだもん!もうっ、すごく可愛いなぁ〜。妹みたいっ。」
「ばっ、馬鹿にしてますよね!?あなたにモヤモヤされる言われないです!!めちゃくちゃ…めちゃくちゃ幸せだったんですから!!」
私が胸を張って言うと、粂野さんは微笑んだ。
「うん、やっぱり妹みたいっ。まあ実弥は俺の弟分だから、実弥の奥さんのさんは妹分だよな!」
「清々しいほどに破綻した理論ですね…」
と言うわけで、またしても兄というものが増えました。
…いやいや!妹分ってこと認めたわけじゃないけど!!!