第9章 置き土産の正体
独り言のように呟いた直後、マンションの下のオートロックのインターホンが鳴った。
私が動く前にしのぶが動いた。
「カナエ、きた?オートロックの開け方わかる?」
「はい、わかります。」
しのぶがテキパキとモニターを操作をする。さすが女子高生。機械への適応が早い。
「…思い出は、残ると思います。」
その時、突然としてしのぶが言った。
「……残らないなら…今が全部嘘ですよ」
その声が震えているような気がしたけど、満足に動かない体では何もできない。そうこうしているうちに今度は玄関のドアのインターホンが鳴った。
しのぶが躊躇いもなくドアを開ける。
「ごめんね〜遅くなって。」
カナエのおっとりした声が聞こえると同時に、その姿が見えた。
そして、後ろには。
私はにこりと微笑んだ。
「初めまして」
声をかけたのは私からだった。目の前にいるのは、驚いた様子で目を見開くセーラー服を着た女子中学生だった。
私と瓜二つの顔をしていた。夢で見た、水面に映ったあの顔と全く同じ。
「……あなた、?」
か細い声が聞こえた。
その声も私と同じ。けれど、人間としては全く違う性格の子だと感じ取ることができた。
「そうよ。私が。あなたが阿国?」
「うん、そう……。」
阿国の目にじんわりと涙が溜まっていく。
私は微笑んでいた。
初めて会ったのに、初めてではない気がした。
私たちは夢の中で知らず知らずのうちに繋がっていた。
遠くはない。決して遠くはないけれど、本当なら交わるはずもなかった。
阿国がすぐに私に抱きついてきたので、私はそっと抱きしめ返した。
「ごめんなさい」
阿国から出てきたのは謝罪の言葉だった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、全部、全部全部、私のせいなの。」
「ううん、そんなことないよ。」
私たちは、すぐにわかりあうことができた。
お互いに不思議な力を持つもの同士、当然と言えば当然だ。しかしこれまでそんな相手に巡り会うこともなかったので、戸惑いを感じてはいる。
「阿国のせいだああぁ」
阿国はボロボロと涙をこぼした。
力なく私の腕の中で泣いていた。