第9章 置き土産の正体
「もともと私の体って頑丈じゃないの。」
私はポツポツと話し始めた。
とても穏やかな気持ちで、それは、まるで。
最後に、お館様と話した時と同じ。
「だから鍛えた。無茶をして頑張って強くなったつもり。その結果、私の体は傷だらけ。治らない怪我ばかりをして、ボロボロだった。今思えばね。あの時はそんなこと考える暇もなかったけど。」
目の前のしのぶはだまって聞いていてくれた。
「結局、痣があろうとなかろうと長生きできなかったんだけど。」
「…霧雨さん、あなたは、確か25歳で亡くなられましたね。…人間として、ですが。」
「うん。そうだね。そして今私は歳を同じくして25歳。」
目線を戻した。
「ちょうど、痣者の寿命の歳だ。」
痣者は人間離れした力を手に入れることができる。
しかし、所詮は寿命の前借り。
長生きはできない。
「じゃあ、もういつ死ぬかわからないってことなんだね。」
「……はい。」
「確かに、実弥は言いたいって思わないだろうね。」
私は目を閉じて、ふふっと笑った。
「不思議。なんか全然怖くない。私、長生きするんじゃない?」
「いえ……多少の例外は存在しますが。」
「そう。」
しのぶが首を横に振った。
ならば、それが真実だろう。疑いようがない。
ゆっくりと目を開けた。
「……私が死ぬのは構わないけど…少し悔しいなあ」
頬杖をついてため息まじりにこぼした。
「…何も実弥に残してあげられてないし」
お金とか、そういう話は別ではないだろうか。
そんなものどうでもいいんだ。いや、確かにもしもの時のためにたくさん、十分すぎるほどのものを用意していたが。
果たして今それがどうなったのかはわからない。全ては春風さんに任せたから、そのことをまた聞かないとな。
「この部屋に、何も残らないのは寂しいな……。」
私は笑うのをやめた。
「思い出だけでも、残ればいいのに。」
それが一番難しいことを、私は知っている。
どんなに大切なことでも記憶から薄れていく。
優しいあの人がくれた言葉を忘れていく。
美人なあの人の長髪の美しさがわからなくなっていく。
可愛いあの子と食べたご飯の味も、柔らかく笑うあいつの笑顔も、大きな体の恋人の顔の輪郭も、大切な弟子の小さな手の体温も。
結局は、儚く消えていくだけだ。