第9章 置き土産の正体
私は何も言えなくなってしまった。
そんな雰囲気ではない。
「…霧雨さん、それは、痣です」
「………アザ?でもどこかにぶつけたりもしてないけど。」
しのぶは続けた。
「ただの痣ではありません。」
「うん…?まあ、それは何となくわかってる。目が覚めたら急に出てきたんだもん。」
「そうですか…では……これは鬼殺隊の頃の話になってしまいますが…」
“鬼殺隊”
しのぶがその言葉を発した瞬間、“痣”と“鬼殺隊”という、全く似つかぬ二つの単語が私の頭の中で見事に噛み合った。
全てを悟った。
実弥のことも今の空気感も全て納得がいく。
「まず、痣というのは「寿命の前借り」」
しのぶが言う前に私が先に言った。
「……知っていたのですか…?」
驚く彼女に頷いた。
「鬼殺隊にいた頃から痣のことは知ってたよ。……ずっとね。」
「……。」
「…しのぶ達も痣に行き着いたんだね。」
「…私たち、“も”……?」
ほんの少し微笑んで頷いた。
「…まだ、誰もいなかった時の話。私が柱になったばかり時の話。鬼の研究に熱心な子がいてね。痣のことを教えてくれたの。……けど、そのことを思い出したのは、今かな。」
そっと服の上から自分の腕の痣を撫でた。実弥が嫌な顔をするのはわかっていたから、真夏だというのにずっと長袖を着ていた。空調が体に悪いから、と彼には適当な嘘をついていたが。
「そっか。じゃあ、目が覚めたのも納得できるかな。」
「…霧雨さん。」
「皮肉だよね…。鬼殺隊の時は、どれほどこの痣の出現を望んだかわからないのに、何百年と経って、今更……。」
私は目線を落として、自分の手元を見つめた。