第66章 愛ゆえに苦しめと
その後、童男はぼうっとした人だと思っていたけど、意外としっかりしてることがわかった。さっき言ってたみたいに自分のことになるとだめらしいけど、それ以外は普通だ。
「こんなことになったけど、俺も那由多も君のことは大切だし…仲良くしたい。」
「………」
「…君を見捨てたも同然の俺たちからこんなこと言われても嫌だろうけど、俺も那由多も君のことは妹だと思ってる。」
童男はこんな風に真面目な話もしてきた。
「……すぐに答えは出ないだろうけど…」
「私…」
「ごめん。こんなこと言ったら言いにくいね。」
…どうしよう。
いきなり兄だと言われても。
………正直わからない。ずっと会ってなかった相手を兄と見られるのか?
「…あの」
「ん?」
「私、今妊娠してるんです」
何を言おうか迷った時、口からそんな言葉が出た。
「……それは…おめでとう…それなら、結婚もしたんだね。」
「はい」
「じゃあ幸せだね。おめでとう。」
童男は心からの言葉をくれた。
「その…私と結婚してくれた人…大家族で、兄弟がたくさんいるんです」
「…そう」
「……それ見てたから、だから、兄がいたことは…嬉しい、です。でも受け入れるのは時間がかかるので…」
私はゆっくりと言った。
「また、会ってくれますか」
童男は少し間を開けた。
「…うん…」
「……ありがとうございます」
私はほっと胸を撫で下ろした。
「…ところで…どんな人と結婚したの」
「あっ、霧雨の家の…隣の、不死川って覚えてませんか」
「……え」
「そこの長男の……」
「………君と同い年の子でしょ。」
「あっ、覚えてるんですね」
「まあ…ちょっと挨拶したくらいだけど。でも女の子じゃなかったっけ。」
童男が少し動揺していた。え?女の子?
「なんだっけ……サ…なんとかミちゃん。」
「サネミ、ですね」
「?女の子じゃないの??」
「………フハッ」
私は思わず吹き出した。そうか。私は考えたこともなかったけど、名前だけ聞くと確かに女の子の名前っぽかも???
サネミちゃん…って、あんなに筋骨隆々の逞しい男なのにな!!!