第66章 愛ゆえに苦しめと
家に帰るまでの間、車内の雰囲気は穏やかだった。
「子供はかわいいよ」
童男はそんな話も聞かせてくれた。
「俺も最初は殴ったり怒鳴ったりしちゃうんじゃないかって思うけど、かわいくて…そんなこと考えられないくらい。」
「…そうなんですね」
「最初は不安だったけど、慣れてくる。」
そうか。この人も不安だったのか。
「……着いたよ。」
振り返る童男にハッとして窓の外に目を向ける。
そこは確かに私がくらすマンションだった。
「あ、ありがとうございます」
「うん…まあ、元気でね」
まるで最後のお別れのようにそう言われた。
「あ!」
「えっ何」
「ちょ、ちょっと待っててくださいね!!絶対待っててくださいね!!!」
私は慌てて車から降り、窓の外に見えた人物の元に駆け寄った。
「サネミチャン!!」
「あ!?…って走るな!!!」
怒られてききっと止まる。
「ちょっと来て」
「あ?ん?なんだ、お前今日…」
「いいから来い」
実弥の手を引き、童男の車までズルズルと連れて行った。運転席の窓を叩くと、彼は中から出てきてくれた。
「………」
「…誰だよ」
「私のお兄さん…らしい人。」
実弥はギョッとして童男を見上げた。
…あれ?気づかなかったけど童男デカくね?実弥より背が高い??
「……霧雨童男…です。24年間会ってなかったけど、この子の兄…です。」
「し……不死川実弥です…」
「うん…隣の家の子だよね…赤ちゃんの時、一応会ってた…けど、まあ覚えてないよね。」
そのことにも驚いたらしく、目がまんまるになっている。
「………じゃあ、俺もう行くので。紹介してくれてありがとう。」
童男は車に乗り込む前に、私は声をかけた。
「また会いましょうね」
童男は頷く。ちょっと笑った気がするのは気のせいだろうか。
「………」
「はあ、大仕事を終えた気分だよ」
実弥と一緒にエレベーターに乗り込み、自分たちの部屋に戻る。
それからしばらくして、実弥はおはぎを撫でながら、じっと私の顔を見てきた。
「何?」
「お前の家……顔面強くね?」
「はい?」
「いや、改めて……お前って顔綺麗だよな…あの血筋にいたらそうか…」
実弥にそう言われて、今度は私がギョッとした。