第66章 愛ゆえに苦しめと
那由多の話を聞いているうちに、私はあることに気づいた。
童男は普通だ。話している中で過去を思い出しているのか、所々心が揺れている。過去の話の時は、暗い感情、家を出た話の時は明るい感情。
けれど、那由多は?
まるで人形を相手にしているみたいだ。何も感じない。いや、感じるけど。優しそうな雰囲気。嘘をついていないこと。それは感じるけど、全て一定している。
今までこんな人に会ったことがない。
恐ろしさはあるが、童男の感情は嘘を示していない。……これは、信じるべきだろうか。
「というわけで、母親が今後君の元へ行くことはない。わかってくれたかな。」
「……はい」
怪しい。怪しさしかない!!でも確信が持てない…。うう。どうしたらいいんだろう。
「これから君が俺たちを兄と扱うかどうかは任せるよ。童男だけを兄と慕っても構わない。他人だと思って関わりを断つのもよし、知り合い程度の付き合いをするもよし。好きにしな。」
「………。」
「一応渡しておくよ。プライベートの連絡先。」
この前のものとは違う名刺だった。そこにはちゃんと本名が書かれていた。……那由多のだけ?
チラリと童男を見ると、童男ははてなマークを浮かべるように首を傾げた。あ、コイツ雰囲気だけじゃなくて中身も冨岡くんか!!
「あ、童男は目で訴えても通じないよ」
「何を言いたいのかわからない」
初めて喋った言葉がそれかーーーーー!!
「えと……あなたの連絡先は…」
「お前の名刺欲しいんだって」
「忘れた」
「……じゃあ俺の裏に書いて」
………。
冨岡くんごめん。君はこの人より優秀です。
「じゃあ、俺の用事はこれだけだから。もうここで解散とするよ。」
那由多は取り繕うようにそう言ったあと、にこりと笑った。
「今日は本当にありがとう。話ができてよかった。ヨウコおばさんもありがとう。、帰りは童男に送らせよう、ヨウコおばさんは俺が送るよ。」
「まあ、いいの?」
私は童男に目を向けた。童男はぼうっとただ目の前を見つめていた。
………なんか指動かして手遊びしてるし。なんなんだろなーこの人…。