第66章 愛ゆえに苦しめと
「そうしたらもう一度お前に会いに行ったらしいな。」
……。
あの時は実弥にも、春風さんにも迷惑をかけた。
「俺たちは…そうだな、勝手だがこんなものを作っていた。」
那由多は私に一枚の紙を差し出した。
「……接触禁止令?」
そこに書いてあったのは、母親が私たち兄弟と関わらないという文章。
「断ち切ろうとしていた血のつながりが役に立った。お前と顔を合わせることなく…上手く作れたよ。」
「……そんな、ここまでして…」
「それさえアイツは破ったんだ。氷雨家が引き取ることになってたみたいだが、早々に訴えてやった。その後のことは…知らん。もう氷雨家に投げようと思う。元はと言えば、アレを作ったのは氷雨家だ。」
那由多は実の母親をアレと言う。けれど、その気持ちはわかる。それだけのことをあの人は私…私たちにしてきた。
「この世の全てを恨むような人だったな」
那由多はため息混じりに言った。
吐き捨てるように兄は言う。愛されない人間の末路を、私たちは知っている。愛されない人間を、私たちが体現しているのだから。
「そう。姉さんはそういう道を行ったのね。」
ソウコさんが肩を落として言う。
「姉さん…私たちは親に愛されたわ。たっぷり愛をもらったわ。けれどね、愛は毒であり呪いなのよ。姉さんは愛を欲し続けた。毒を食べ続けたのよ。」
「………」
「まあ、毒に囚われた人の末路なら納得ね。」
ソウコさんは笑う。
「愛で、毒で満たされる前に誰かに愛を与えないといけないの。そうすることで、自分の器が毒で満たされることはなくなるわ。姉さんは誰にも愛をあげなかった。だからね。あなたたちは悪くないわ。」
そう言われても、なんとも後味の悪い。
私は手の中の紙を那由多に返した。