第66章 愛ゆえに苦しめと
とりあえず私とソウコさんは椅子に座った。その向かいに那由多と童男が座った。
改めて童男を見ると、彼はスーツをかっちり着ていた。アクセサリーも身に付けていないので那由多とはまた違う印象を受けた。
「今日は来てくれてありがとう。」
真央はにこりと笑う。
「突然呼び出して申し訳ない。でも俺たちがお前のことを考えていることは確かだ。とりあえず、俺たち二人がどうしてあの家から去ったのかを話そう。」
私はひとまず黙って話を聞くことにした。
「知っているだろうが、俺たちの親はクソだ。故に俺たちはあの二人が大嫌いだった。」
……………それに関しては共感できる。
「君が親に何をされたかは知らないが…恐らく俺たちがされてきたことと大差ないだろう。殴る、蹴る、怒鳴る…そのループ。
まじで大嫌いだった。だから俺は童男が中学生を卒業するのを待って家を飛び出した。その頃、お前はまだ1歳とかだった。
俺たちには経済能力もない…童男は自分で働いて生きていける歳だし俺も就職はしたけれど1歳の妹を連れていくだけの金銭的余裕と精神的余裕がなかった。」
「……だから、姿を消したと?」
「そう。その結果、霧雨家にいなかったものとして扱われることになった。」
……そうか。
私は途中であの親と暮らすことを諦めたけど、この人たちは自分たちで行動を起こしたんだ。
「俺たちは君を…を迎えに行く事だけを考えた。」
名乗ってもいないのに那由多は私の名前を口にした。
「けれど、俺たちもつまづいていた。……最初は児童相談所や公的な機関を頼ったけれど、取り合ってもらえなかったんだ。
を養えるだけの金を手に入れた頃、気がつけばあの家から親はいなくなっていた。」
中学の時の事件以来、親は家を出ている。きっとその時と被ったのだろう。
「俺たちは君とは面識もないし、そもそも霧雨家と縁を切ったようなものだ。そんな俺たちより、祖父母と一緒に暮らしている方がいいのかもしれない…もうに会うのはよそうと思ったんだ。」
その話に嘘はない。確信が持てるし、間違いがないとわかる。