第66章 愛ゆえに苦しめと
家に帰るとどっと疲れが押し寄せた。私は一言も発さずにソファーに座る実弥に抱きついた。
「…あ?なんだよ」
「……」
「初詣、人たくさんいたのか?」
実弥は優しい手つきで私の頭を撫でる
「行ってない」
「ん?」
「初詣なんて行ってない」
私は実弥の体に顔を埋めて、静かな声でそう言った。
「……じゃあ、どこ行ってたんだよ」
「……」
実弥は怒らない。優しい手つきに目が熱くなる。
「私、兄が二人いるんだって」
「………………はァ?」
「そのうちの一人にこの前会った」
「…嘘…でも冗談でもねえのか?」
「そう」
私はぎゅうっと腕に力を込めた。
「会ったこともなかったし、顔も名前も知らなかった。でもこの前、一番上の兄に会ったの。気配でわかった。」
「……………」
「母親から解放されたいなら、7日に会いに来いだって。霞守神社の奥さんなら何か知ってるかと思って聞きに行った。そしたら、私には本当に兄がいるって……。」
顔をあげて実弥を見上げる。
実弥は無表情で黙って私の話を聞いていた。
「私、もう“家族”なんてうんざり。」
「………」
「……お兄様の存在なんて忘れていたのに。前世でも助けてくれたことなんてなかった。顔も覚えてない。名前も知らない。別に恨んでもいないけど、愛してもいない。
でも、私の家族なんだって。」
私は実弥の頬に触れた。
「7日は霞守神社の奥さんがついてきてくれるって。」
実弥の顔は影が落ちたみたいに、はっきりと見えない。いや、見えているのに見えない気がするのは、私がおかしいからか。
見たくないから、見えないふりをする。
「……………会いたくない」
私は小さな声でそう言った。
黙って聞いていた実弥は頬の私の手にそっと触れた。
「……お前の兄が今更何しにきたか知らねえが…」
「………」
「妹にこんな顔させるのは兄貴のすることじゃねえ」
「……そっか」
実弥の体から離れて、ソファーに沈むように座った。
彼は、会うなとは一言も言わなかった。私の答えを見抜いていたのかもしれない。止めてくれたら、会いにいくのをやめようと思ったけど。
「実弥」
「ん?」
「……大好き」
そう言うと、実弥はぽんと私の頭に手を置いた。