第66章 愛ゆえに苦しめと
「そもそも姉さんがお義兄さんと家出も同然で結婚したのは那由多くんを妊娠したからなのよね。」
彼女は私の知らない話を聞かせてくれた。
「那由多くんが生まれてすぐに下の子も生まれてね。子育てが大変だからってたまに私が面倒見てたわ。私はまだ実家に残っていたし、ほぼ駆け落ちの二人に両親は怒って顔も見ようとしなかったから、面倒見られるの私しかいなかったのよね。
でもそのうち任されることは無くなって〜姉さんとも連絡できなくなって〜。なんか気がついたら那由多くんたち見なくなったのよね。
家を出て自立したのかって考えてるところに、私も結婚したしぃ、そうしたらちゃん生まれてたし…。」
その人はこてん、と首を傾げた。
「どうして今更那由多くんは顔を見せたのかしらね?」
「…私が知りたいです」
「そうねぇ。私も知りたいわ。じゃあ7日、私もついていっていいかしら」
「へっ!?」
突拍子もない提案に変な声が出る。彼女はニコニコと笑っている…けど、めっちゃ本気だ…。
「な、なんで」
「だってぇ、那由多くんは一人で来いなんて言ってないみたいだし?」
「はっ確かに」
こ……この人、天才では???????
「那由多くんの会社に行くなら、もう敵の本拠地に突っ込みに行くって言うかぁ、それを一人でやっちゃうのはダメって思うのよね。」
「はあ…でも…あの人は、敵なんですかね」
「う〜ん…」
あの一瞬だけしか知らないが、どうも怖い様子はなかった。ただ別れ際だけ少しゾッとしたくらいで…。
「那由多くんは怖いわよ」
急に彼女が真顔になった。
その場の空気がピシッと張り詰めるのを感じた。
「ちゃんは那由多くんに似てるかもね。」
「……」
「姉さんの子よ。気をつけて。」
私は息を呑んだ。
「那由多くんは、神様も見放すような子よ」