第9章 置き土産の正体
次の日のお昼頃、しのぶがやってきた。
「姉さんは阿国さんを後から連れてきます。」
いつものようににこやかに言った。
夏休みだからか、私服だった。軽やかに歩く彼女からは花の匂いがした。
「悪い、胡蝶。」
「いえいえ。構いませんよ。」
「…外出てくる。」
「えっ。何それ、外行くの!?」
私が驚くと、実弥は昨日のようにごめんと独り言のように呟いた。私は止めることもできずにただ彼を見送った。
「き…昨日から行動の意味がわからん…。」
はっきりとわかるのは、今いる二人きりの部屋に流れる空気がめちゃくちゃ最悪ってこと。
「お、お茶いれるね。麦茶でいい?ジュースもあるけど。」
「あ、動かないでください。私がやります。」
どこに何があるかと教えればテキパキと動いてくれた。
わあ、こういうところ全然変わってな〜い。
「それで、なんか良くわかってないけどなんか話してくれるんだよね。しのぶが。」
「ええ。そうですね。そういうことです。」
しのぶはにこりと笑った。
「不死川先生からすれば酷なことです。私たち姉妹に頼ったことを責めないでくださいね。」
「…はぁ。」
私は頷いた。
「最近、体調はどうですか?」
「調子は良いよ。本調子じゃないけど。もしかしたら一生このままかなって私は思ってる。」
実弥が私のことで気を病んでいるのは薄々知っているので、決して彼には言わないが。
「…腕と足に、何か痕が残ったとお聞きしたのですが。」
「あ、うん。そうだよ。…見る?」
嫌な顔をするかと冗談で聞いたのだが、しのぶは首を縦に振った。
「はい。」
私は腕の方を見せた。
足の方は見せるにしては際どいのでやめた。
「……。」
「しのぶ?」
「もう良いですわかりました」
すぐに見せるのをやめた。しのぶがまとう空気が変わったのがわかった。