第66章 愛ゆえに苦しめと
「なんですか?」
見た目は尋常じゃないほど…その、あっち系の人に見える。けれど、悪い人ではないと気配でわかっていたのでとりあえず聞いてみた。
「ずっと君を探していたんだ。」
「はあ」
「これを」
そう言われて渡されたのは名刺。
「……drizzle」
名前の欄には英語でそう書かれていた。
…へえ、アパレル会社の…社長なんだ。何この名前。…芸名?
え?何怖い。
「あ」
その時、私は気づいた。
「霧雨…?」
「そうだ。」
drizzleは英語で霧雨だ。
つまり、この人は…。
私は、懐かしい気配の正体を悟った。
名前は忘れた。顔も覚えちゃいない。
だけど、その気配だけははっきりと鮮やかに記憶に残っていた。
「俺は霧雨那由多。君の兄だ。」
私はしばらくフリーズした。
「おおおおおおお兄様ぁああ!?!?!?!?!?」
「お兄様は照れる…」
「えええええええええええええええええええええ」
なんだよそれ。ここにきて!?人生25年目にして!?!?!?ずっっっと謎だったお兄様に会ってしまった!!
私は三兄弟の末っ子ってことは覚えていた。けれど存在しか覚えてなくて、それ以外のことはわからない。
いやでも待て。向こうは前世の記憶ないだろうし…。
「驚くのも無理はない。今更兄貴面をするつもりもないし。そもそも君は俺たちの存在を知らされていなかっただろう。ただずっと君に会いたかった」
…存在を知らされていないってことは今生の話をしているのか。てことは記憶はない…っぽいな。
「信じて貰えないの無理はない。」
いえ嘘です信じてますていうか確信してます。
「これを」
「写真…?」
彼が懐から出した写真を受け取る。それを見ると、若い両親と…今目の前にいる人と思われる小学生くらいの男の子、そしてまだ幼い男の子が一人写っていた。
「俺たちがまだ、あの家にいた時の写真だ。俺は一番上。下にもう一人いる。」
…ってことは兄は二人?私の記憶は間違ってなかったってことか…。んん?まあ、霧雨家の記憶は前世の時すらうろ覚えだったからな。しょうがない。
この写真かなり古いなぁ。この人、私よりだいぶ年上??若く見えるけど…。